「じゃ、またお昼休みね。迎え行くからにゃ♪」 「うん。遅れたら許さないよ」 「へへ、りょーかい!」 例えばこうやって朝別れる時、愛されてるなって思う。 朝練に寝坊しないようにわざわざ家まで迎えに来たり。朝練後、教室まで一緒に行ったり。 その間…必ずこうして、人目を気にせず手を繋いでくれたりとか。 全部俺を想ってやってくれてるって思うと、何だか妙に照れ臭くって…恥ずかしい。 |
両思い、ときどき片思い。 |
あの人と別れると、そこからはツマラナイ時間。説明下手な教師の授業。 その語尾の伸びる言葉を聞きたくないから、寝てしまおうかと頭を黒板からずらした。 …それは単なる偶然。ちょうど3年が外で体育をやっているらしく、あの人の顔が見えた。 いつものアクロバットな動きは健在らしく、サッカーやってるんだか大道芸をやってるのか…よく分からない。 ジッと見つめるけど、気づく様子はなくて。まぁ、グラウンドからここ(1年の教室)は離れてるから、仕方ないけれど。 よく見てみたら、他の先輩も居た。 もちろん不二先輩は居るの当たり前だけど(何て言ってもあの人と同じクラスだし…)、 何故か部長とか大石先輩とか…。乾先輩やタカさんも居る。他の先輩達も、各部のエースやレギュラーの3年だ。 (もしかして…運動部だけのクラスマッチでもやってるのかな?) そう思ったら授業なんかより楽しそうで、そっちに視線を向けた。 (あ、部長上手い…。上手く敵の攻撃避けて、ゴールに繋ぐパスしてる…) 部長を見てると、『天は二物を与えず』ってウソだよなって思う。マルチな人って何でも出来るし。 あの顔であの頭であの人格であの運動神経で…。 (きっとあの人の持ってないもの、いっぱい持ってるんだよなぁ…) 部長には、前に告られた事があった。 でもその頃にはあの人と付き合ってたし、部長に興味なかったから断ったけど…。 今思うと、凄い人を振ってしまったんだよなぁって感じる。 (不二先輩は…サッカー苦手なのかな?あまり参加してないな…) あの華奢な体じゃ、無理もない気がするけど。サッカーってファールの多い格闘技だし…。 (あ………、) あの人が、不二先輩に何か言ってる…。二人とも笑顔じゃん…。 二人が仲良いのは知ってるけど…なんかヤだな。俺の知らないあの人がいるみたいで…。 (もういいや…、寝よ…) 何かこうやって見てるのが恥ずかしい気がして、俺は机に突っ伏すと、堂々と居眠りを始めた。 (ホント馬鹿みたい…。不二先輩に嫉妬するなんて) いつの間にか教師の口調が子守唄に聞こえて、俺は気持ち良く眠りについた。 「…何で来ないんだよ」 いつもならとっくにあの人が迎えに来てくれて、一緒に屋上でご飯を食べてる時間。 今まで遅刻した事なんてなかったし…。来れない時は、ちゃんとメールくれたのに。 一応携帯を出してセンターに問い合わせたけど、メールはなかった。 (英二が約束破った…?それとも、携帯に連絡入れられないぐらいの緊急事態…?) どんどん不安になっていって、居ても経ってもいられなくなった。 乱暴に席を立って、お弁当を持って教室を出る。 その俺の様子に、教室に居た何人かは驚いた表情をしてた。 (…やっぱ、3年6組かな) さっきの事があるから、何となく不二先輩には会いたくないのだけれど。 そうも言ってられなくて、足は3年の階へと向かって行った。 …3年の階。ここを訪れる1年はそうそう居ない。 それでなくても身長が低い俺は、周りの先輩からジロジロと見られた。 (珍獣じゃあるまいし、ジロジロ見んなっつーの) 心の中で悪態づいて、3年6組の教室を覗いた。…俺が探している人の姿は、ない。 「あれ…?越前じゃない。どうしたの?」 「あ、不二先輩…」 いつものように優しく微笑みかけてくれる先輩を見て、さっき嫉妬してた自分が恥ずかしくなった。 こんな風に笑ってもらえるなら、あの人じゃなくたって仲良くするだろう。 「珍しいね、ここに来るのって。英二便はどうしたの?」 『英二便』…何でも俺の世話を焼きに教室まで通ってくるあの人についた愛称。 <<呼んでるのは3年レギュラーと桃先輩くらい。あ、桃先輩は『エージ先輩便』だったかな>> 俺は少々顔を顰めて、呟いた。 「何か、今日は臨時休業らしいッスよ。で、連絡もないから探しに来たんスけど」 「…そうなの?変だなぁ。『今日も英二便行ってきまーす!』って叫んで、授業終了早々に出てったのに…」 (え…?俺のとこに行ったの?でも、今日は来てない…) 「何だろう、急に先生に用事でも頼まれたかな?多分越前が教室居ないの分かったら戻ってくるから、一緒に食べない?」 自分のお弁当を目の前でちらつかせる不二先輩。 …先輩がフォローしようとしてるのが分かって、俺は惨めに感じた。 「…いっすよ、後ろで先輩の友達、待ってますよ」 「越前…」 「じゃ、俺は戻るッス。あの人戻ってきても、俺が来たこと言わないで下さいね」 「あ、越前!」 不二先輩の言葉を無視して、俺は1年の階に戻ってきた。 お昼を食べてないから腹は鳴ってるし、あの人が約束破った所為で心も痛い。 (ったく…俺をこんな気持ちにさせるなんてね) 弁当を持ったまま廊下の窓から外を眺めると、裏庭がよく見えた。 上から見下ろす裏庭ってのはなかなか新鮮で、視線を動かす。…と、見知った姿が目に入った。 (…英二!?嘘…何で…) 見下ろした先には英二と…その正面に、俯いた女の子がいた。(多分、背格好から言って2年か3年) 英二はちょっと照れたように笑いながら、女の子の頭をポンポンと撫でて、何か受け取ってた。 それで…顔を近づけて、キス…した。 (嘘でしょ…英二が、浮気…?!) 俺は目の前が真っ暗になって、そのまま教室に戻った。 女の子と仲良く…それもキス…なんてしてる英二を見てられなくて。あんまり顔を青くしてた所為か、堀尾にも心配されて。 でもそんな言葉が耳に入らない程、俺は動揺してた。 (英二にとっての俺って、所詮遊びだったのかな…) 元々、あの人も俺もノーマルだった。何で惹かれたのかは…今でもよく分からないのだけれど。 お互い好きになって、一緒に居るようになって…愛するようになった。 (そう思ってたのは、俺だけだったのかなぁ…) 付き合ってからずっと振り回され続けてる気がして、俺は突っ伏したまま拳をギュッと握り締めた。 悔しい程、溺れてしまっている自分に苛立ちながら。 (俺、こんなに急いだ事ってあったかな〜?) そんな事考えながら、通い慣れた1年2組へと走ってた。何故って、愛しのリョーマに会うためさっ! 昼休み、幼馴染の女の子に「どうしても相談したい事があるの」って言われて、ついて行った…のが失敗だった。 それが終わった時には昼休みも終わってしまっていて。リョーマに謝りのメール送ったけど返事がなくて。 いや〜な胸騒ぎを覚えてるとこに、不二の警告ひとつ。 『英二、大切なものの優先順位って、ちゃんと出来てる?』 『はにゃ?何のこと〜…?』 『…越前が離れていっても、いいの?』 その表情がとても嘘とかハッタリには見えなくて。午後の授業が終わった放課後、俺は走ってる。 「リョーマッッ!!!ごめん、昼休みは…!」 「き、菊丸先輩…?」 まだSHRが終わったばかりらしくて、ほとんどの1年が教室に残ってた。 …でも、リョーマの姿はない。 「ねぇ、リョーマはどうしたの?まさか部活…行った?」 すぐ近くに居た堀尾(驚いた表情してる)を捕まえて、詰問。(だってビクビクしてるんだもん。間違った表現じゃないっしょ) 堀尾は困ったように首を傾げた。 「何か、委員会で図書室行きましたよ?」 「はぁ?でも今日は当番の日じゃないっしょ?」 「そうなんスけど…。なんかアイツ、昼休み辺りから暗くって。他の曜日の委員に無理に変わってもらったみたいだし…」 「…昼休みか。ありがとな」 「え、ちょ…菊丸先輩?!部活…!」 「じゃーなー!」 後ろ手に振りながら、またまたダッシュ。…あー、図書室ってどっちだっけ? たいして利用した事ないからなぁ…。 「…あれ?」 流石に辿りついたけど、何故か扉に「CLOSE」の文字。 …リョーマ、どうしたんだろう。 「…リョーマ、居る?」 図書室の受付に突っ伏してる影。…間違いない、リョーマだ。 「…寝てるの?」 顔を上げないリョーマに近づくと、そう呟いた。 「寝てます……」 「起きてるじゃん!…あのね、昼休みはごめん」 「何がごめんなの?約束破った事?それとも浮気した事?!」 急に顔を上げて怒鳴ったリョーマに、俺はびっくりした。…浮気??あ、もしかして…? 「見てたの?裏庭…」 「偶然、ね。浮気現場だとは思わなかったけど!」 「ちょ、さっきからその…浮気って何!?」 本棚の方へ行こうとするリョーマの手を掴んで、俺の方を無理矢理向かせた。 …泣いてたのかな。目が赤くなってて、うっすらと頬に線が残ってた。 「…女と、一緒に居たじゃん。誤魔化す気?」 「あーうん。でもでも、浮気なんてしてないよ?」 「してたじゃん…!女の子の頭撫でた後…キス、してた」 「……………ぇ?」 自分でも、情けない声が出たと思った。 でも目の前のリョーマがボロボロと泣いてるのを見ると、これはヤバイと思って、思わずギュッと抱きしめた。 あまりにも可愛かったから。 「リョーマ、それって誤解だよ?」 「…誤解?」 「うん。あの子はね、俺の幼馴染なの。で、一年の頃から不二が好きだったんだけど、告白はしなかったんだ」 「……」 「でも、卒業までに想いを伝えたいって言うから、俺が協力してラブレターを橋渡ししたわけ」 『俺、リョーマのとこ行ってくる!』 『早くね?英二の責任なんだから』 『…俺じゃなくって不二の所為だっつーの!これ!!四組のいっっっっっっちばん可愛い子から!』 『え……?四組って…』 『俺の幼馴染…泣かせたりしたら、容赦しねーかんな!』 四組で一番可愛い子って言ったら、三年の男ならほとんど通じる。…それぐらい、俺の幼馴染は可愛い。 不二も珍しく顔を赤くして、ジッと俺から受け取った手紙を見てた。ありゃ、間違いなく上手くいったな。 「…じゃあ、キスしてたのは…?」 「多分、あいつのコンタクトがずれた時だと思う。痛いって言うから、見てあげてたの」 「……俺の勘違いなの?」 リョーマは涙で濡れた頬を真っ赤にして、俯いた。 「俺、浮気なんてしないよ。リョーマ一筋だもん」 「…でも、俺との約束より優先したじゃん」 「ん、それはホントごめん!早く連絡しようと思ったんだけど、あいつが真剣だったから、俺もそれなりの態度で…」 「うん、分かってる。英二がそういうとこで、ちゃんと人の気を遣ってること。そういうとこ…好きだし」 「リョーマ…」 俺は感激しちゃって、リョーマをぎゅーと抱きしめた。 やっぱり幸せ者だよなって思う。こんな可愛い子を恋人に出来た俺って。 すごーーーく幸せ者。。。 「あっ!!!ヤバイ…!」 「どうしたの、英二?」 暫く二人で図書室でくつろいでたら、英二が叫んだ。 青い顔、焦った顔、死んだような顔…嫌な百面相だな…。 「俺、急いでたから無断で部活休んじゃったー!」 「!!」 あの部長の事だから…50周以上は確実だよね。もしかしたら100周かも…。 でも、大丈夫だよ、英二? 「俺も一緒に走ってあげるよ?」 「へ…?」 「ほら、指切り!」 英二の、俺より長い小指と、自分の小指を絡める。 そして…そこにキス。 「約束だから」 「…うん!約束だね」 ねぇ英二…小指を見てキスを思い出すって、なかなか刺激的じゃない? Fin 菊丸「…ふ〜ん?言い訳はしないの??」 綺月「開口一番がそれですか…;いやぁ、もうちょっとラブラブにしたかったんですけど」 菊丸「俺達、走るんでしょ?なんか不二達の方が幸せなラストな気が…」 綺月「気のせい気のせい!!一緒に走れるんだからいいじゃない!」 菊丸「なんか釈然としないけど…ま、いっか☆」 綺月(単純な人で良かった…) 菊丸「また読みに来てね!もっと良いの書かせるから♪」 |